こんにちは、統一翻訳ライターの津山です。今回は、ここ数年、世界で注目を集めている、ウクライナの言語について、ご紹介したいと思います。

ウクライナ語は、現在、IT産業、ボランティア活動等を中心に、翻訳のニーズが増えている言語です。実際に、弊社・統一翻訳でも、IT産業に関するマニュアル翻訳やウェブサイト翻訳のご依頼が、急速に増えています。

しかし、ウクライナ語は、文字はロシア語、発音はポーランド語に似ている部分を持つという、非常に複雑な言語です。そのため、ウクライナで実際に耳にする言語は、まるで、ウクライナ語、ロシア語、ポーランド語、3カ国の言語が混じり合ったようにも感じられます。

もし、ウクライナにビジネスで訪問なさる機会がある方であれば、ウクライナ語の成り立ちの背景や、ロシア語、ポーランド語との違いを少しでも知っていると、ウクライナ人との会話やコミュニケーションを円滑に進めやすくなります。

そこで、今回は、ウクライナ語という言語の概要と、文法や語彙におけるポーランド語やロシア語との違い、また最後に、日本語や英語からウクライナ語を翻訳する際のポイントを、翻訳のプロフェッショナルである弊社・統一翻訳がご紹介したいと思います。

ウクライナ語という言語の成り立ち

ウクライナ語という言語の成り立ち

まずウクライナ語という言語の概要について、ご紹介します。言語の成立過程や分類から見てみると、ロシア語、ポーランド語との立ち位置の違いがわかりやすくなると思います。

ウクライナ語の成り立ち

ウクライナ語は、「スラヴ祖語」と呼ばれる祖先の言語から分岐した、スラヴ語派に属する言語で、話者は、世界で約4,500万人と推定されています。スラヴ語派の中では、ロシア語、ポーランド語に次いで三番目に話者が多い言語です。

また、ウクライナ語は、スラヴ語派という大枠の中の、さらに細かい分類として、ロシア語やベラルーシ語とともに「東スラヴ語群」に属しており、キリル文字を使用します。一方、ポーランド語は、チェコ語やクロアチア語とともに「西スラヴ語群」に属し、ラテン文字を使用します。

しかしウクライナ語とロシア語では、同じキリル文字を使用しているとはいえ、厳密には一部欠落している文字が存在します。ウクライナ語は、33のキリル文字で表現されます。

ウクライナ語は33のキリル文字
引用元:NPO法人日本ウクライナ友好協会KRAIANY

実際にウクライナで話されている言語とは

実際にウクライナで話されている言語とは

現在、ウクライナの公用語は、ウクライナ語(Українська мова/ウクライーンスカ・モバ)です。そのため、ウクライナで流れる公共放送や、学校教育は、全てウクライナ語で行われます。

しかし家庭では少し事情が異なります。調査によると、ウクライナ国民の中でも、家庭で話す言語がウクライナ語である国民は40%、ロシア語である国民は35%、両方を使用する国民は25%となっており、生活の中では、二つの言語が同時に使用されている状況です。

ウクライナの首都キーウや、最東部の都市ハリキウでは、現在でも、ロシア語とウクライナ語の話者が存在しています。ウクライナで最も有名な大統領となったゼレンスキー氏も、ウクライナ東部の出身で、コメディアン時代は、主にロシア語を使用して活動していました。

ウクライナ語、ロシア語、ポーランド語における違いの事例

ウクライナ語、ロシア語、ポーランド語における違いの事例-

ではここから、ウクライナ語に触れる機会のある方にとっては非常に悩ましい、ウクライナ語とロシア語とポーランド語との違いを、事例を元にご紹介したいと思います。

文法面における違いの事例

文法面における違いの一例をご紹介します。ウクライナ語とロシア語とポーランド語では、「持つ、所有する」という表現に対して、英語でいうbe動詞を使用するか、haveを意味する動詞を使用するか、という点が異なります。

(例)ある物を所有していることを説明する場合

  • ロシア語:be型動詞を主に使用する(「私には〇〇がある」)
  • ポーランド語、ウクライナ語:be型動詞、have型動詞、どちらも使用する(「私には〇〇がある」、「私は〇〇を持っている」)

ウクライナ語の話者においては、ロシアに近い東部の話者がbe型動詞を使用するのに対し、ポーランドに近い西部の話者ではhave型動詞が使用されるなど、地域差が見られます。

語彙面における違いの事例

ウクライナ語では、ロシア語と同じキリル文字を使用して表現するものの、語彙の共有量は62%程度(英語とオランダ語の語彙共有量とほぼ同じ)で、そこまで高くありません。

ウクライナ語の中には、ポーランド語由来の語彙が多く見られます。その理由は、ウクライナの土地が、ポーランド・リトアニア共和国など、ポーランド語を公用語とする国に編入されていた時代が長かったためです。

以下では、ウクライナ語の語彙の中でも、ロシア語よりも、ポーランド語に近い単語の事例をご紹介します。

例1、「ありがとう」 ウクライナ語:Дякую(ヂャークユ) ポーランド語:Dziękuję(ヂェンクーイェン) ロシア語:Спасибо(スパシーバ)  例2、 「ベッド」 
例3、「愛しい人(ハニー、ダーリン等)」 ウクライナ語:коханий(男性・コハニイ)、 кохана(女性・コハナ) ポーランド語:kochany(男性・コハニ)

その他、ウクライナ語とロシア語では「脚(あし)」​​нога(ウクライナ語:ノハ、ロシア語:ナガ)のように、同じ綴りでも、発音が異なるといった語彙も存在します。 

ウクライナ語とロシア語における発音等の違いは本記事では触れませんが、以下の記事が参考になりますので、リンクを掲載いたします。

参考:ウクライナ語とロシア語の違いについて(京都産業大学)

ウクライナ語の翻訳を行う際の注意点

最後に、数多くの企業様のウクライナ語翻訳案件を担当した弊社から、あまり他の記事では公開されていない、ウクライナ語翻訳の際に注意すべき点を、ご紹介します。

日本語や中国語をウクライナ語に翻訳する場合の注意点

日本語や中国語をウクライナ語に翻訳する場合の注意点

日本語や中国語と、ウクライナ語では、文章の構造が非常に異なります。そのため、日ウクライナ翻訳、中ウクライナ翻訳における機械翻訳の利用は、誤訳のリスクが非常に高くなります。たとえ意味が通じればいい、というレベルの文章であっても、少なくとも、英語を経由して、翻訳なさってください。

また、ウクライナ語の機械翻訳ソフトは、まだまだ進化の過渡期であり、ビジネス等で使用する資料に関しては未だ、使用可能な品質ではありませんので、プロの翻訳会社にご相談いただくことをお勧めします。

もし社内向け資料など、少しでもコストを抑えたい場合は、機械翻訳で訳文を作成した後、プロの翻訳会社にポストエディット(校正)をご依頼いただくだけでも、相当品質が改善します。

英語をウクライナ語に翻訳する場合の注意点

英語をウクライナ語に翻訳する場合の注意点

英ウクライナ翻訳の場合、人名や固有名詞などは、ウクライナ語の訳文では英語の原文に比べ15%程度長くなります。そのため、ビジュアルが重要な役割を果たすUI翻訳やウェブサイト翻訳においては、レイアウトの修正が欠かせません

参考記事:ウェブサイトの多言語化で集客アップ!決め手はデザインと翻訳品質

また、ウクライナ語と英語では、文章中で使用される記号も異なります。以下に一例を紹介します:

  • ウクライナ語では、「 ” 」や「 , 」を使用せず、代わりに「 : 」や「 – 」を使用
  • 小数点の表記は「 . 」(ピリオド)ではなく「 , 」(カンマ)を使用

上記のような要素は、文章の内容自体には直接関係ありませんが、もし皆様が、海外企業の日本語版ウェブサイトで、「。」が使用されるべき場所に「、」と記載されているのを目にしたら、この企業が、本当に日本語を理解しているのか、少し疑問を抱かれるのではないかと思います。

些細な違和感でも、訳文の使用地の読み手には、自分達のことを、十分に理解していないと捉えられ、信頼を失うリスクが残ります。

もしウクライナ語の翻訳を、ビジネスで使用する場合は、デザインから翻訳まで一気通貫の対応が可能なDTP(卓上翻訳)サービスや、ネイティブ翻訳者を擁する、プロの翻訳会社に依頼することで、結果的にビジネスで成果を出しやすくなり、コストパフォーマンスも高くなります

参考記事:【DTPの基本】翻訳コンテンツの質をあげる3つの役割をプロが解説

弊社・統一翻訳でも、デザイン専門のアートディレクションチームによるDTPサービスをご提供しています。また、ウクライナ語を母国語とする翻訳者も数多く在籍していますので、もし、ウクライナ語の高品質な翻訳をお求めの際は、ぜひ一度、弊社にご相談いただければと思います。

統一數位翻譯について

いかがでしたか?今回は、世界で注目を集めているウクライナ語について、言語の特徴や、ロシア語、ポーランド語との違いをご紹介しました。この記事が、ウクライナ語に関わる皆様の参考になれば幸いです。